「Liszt Player1」
演奏:持田正樹
録音 2009年10月20、21日 三鷹市芸術文化センター
1. ピアノ・ソナタ ロ短調 Lento assai;Allegro energico
2. ピアノ・ソナタ ロ短調 Andante sostenuto
3. ピアノ・ソナタ ロ短調 Allegro energico
4. 愛の夢 第3番 変イ長調
5. ペトラルカのソネット 第104番<巡礼の年第2年「イタリア」より>
6. ペトラルカのソネット 第123番<巡礼の年第2年「イタリア」より>
7. ハンガリー狂詩曲 第12番 嬰ハ短調
ハンガリーでじっくりとリストを学んだ持田正樹が紡ぎ出す「ロ短調ソナタ」は、超絶技巧よりもリストが作品に託した雄大なロマン、自由闊達さ、新鮮な空気、気高い美しさ、深刻さ、創造性などの多面的な魅力が前面に表出した演奏。全編打鍵が堅固な地に足の着いた演奏で、凛とした迷いのない響きがたのもしさすら感じさせる。しかし、「愛の夢」ではおだやかでファンタジーあふれる音色が湧き出て、夢見心地な気分を味わわせてくれる。
モーストリー・クラシックvol.160(2010年9月号)
持田正樹。この名前、ピアノ独奏家としてはCDデビューだそうだが、たしかに聞いたことがある、知っている……と言われる方がたもあろう。その通りで、彼は、ここ何年か国際的に活動し知られたピアノ・デュオ「ゲンソウジン」の片方(もう一人は夫人の日南由紀子)なのである。持田正樹はかつて(1990〜1996)ハンガリーの国立リスト音楽院に学んでおり、ブックレット内に見る柴田龍一氏の言葉をお借りすれば、「本場ハンガリーの正統なリスト解釈を体得している貴重な日本人ピアニスト」の一人であるという。そしてこの位置づけは、この1枚のアルバムをつぶさに聴くにつけ、たちどころに頷かれるものとなる。ブックレットは、その表にも裏にも"HONEST / Masaki MOCHIDA"なるロゴを掲げているのが目を引くのだが、まことにそのとおり、リストのソナタの演奏は正直にして公明正大。もの思わせぶりな仕草や手練手管の類は、まるで感じさせず、明快そのものの流儀で音符を鳴らしてゆく。けっしてたんにあっけらかんと弾いていくわけではなく、リストが意図したところを正確かつ雄弁に表現してゆく、ひとかどの、あるいはそれ以上の演奏。ソナタの後には「愛の夢」、ペトラルカのソネット2篇、「ハンガリー狂詩曲」第12番などが弾かれるが、いずれも伸びやかな達演である。"List Player 1."とあるので、きっと続編も出て来ようが、注目して待ちたい。
レコード芸術(濱田滋郎)vol.59 No.720(2010年9月号)
今年5月号の当欄でご紹介したピアノ・デュオ「ゲンソウジン」の一人、持田正樹のソロ。デュオではハンガリー国立音楽院に留学した経験を持つ人たちらしく、リストの「メフィスト・ワルツ」第1番の4手連弾版をメインにしたハンガリーを中心とした東欧の作曲家たちのアルバムだったが、こちらはリストのソロ作品集。ソナタや「愛の夢」第3番などを収録している。まずはソナタ。鍛え上げられた輝くばかりのタッチで、全曲を通して力とエネルギーに満ちている。クリスタルのような弱音から厚みのあるフォルテまで、デュナーミクの振幅が大きく、ドラマの作り方も明快で構成的にもどっしりとした安定感がある。流麗なパッセージが煌き、集中力に富み、音楽は停滞することがない。色濃い陰影とともに彫りの深い表現を聴かせているが、とりわけアレグロ・エネルジコ以後の迫力は圧巻だ。「愛の夢」第3番もスケールが大きくてロマンティックな魅力に溢れる。続いて「巡礼の年第2年(イタリア)」から「ペトラルカのソネット」はそれぞれの楽曲の語り口の妙味が楽しめる。とりわけ第104番では様々に揺れ動く心の様が自在な表現で巧みに描かれる。デュオのアルバムでは「ハンガリー狂詩曲」第2番がさすが本場仕込みと大いに感心したが、今回は第12番。ラプソディックなラッサンのこのような真実味はなかなか出せるものではないだろう。フリスカも迫力満点で痛快この上ない。
レコード芸術(那須田務)vol.59 No.720(2010年9月号)
[録音評] 豊かな残響を持つ空間でのピアノ演奏らしい響きの広がりの大きなピアノ・イメージである。ピアノは大きめなイメージを繰り広げて中央に定位し、響きは華やかながらアタックはどこかまろやか。優しいピアノ・サウンドであり、ステージ上にあるピアノをほどほどの距離から俯瞰する感じもある。ピアノには響き過剰な空間だろうがアタックは明確である。2009年10月の収録。<90>
レコード芸術(神崎一雄)vol.59 No.720(2010年9月号)